大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ラ)468号 決定

抗告人 永井房太郎

訴訟代理人 根岸嘉明

相手方 市村由三

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状記載のとおりである。

本件記録並びに取寄にかかる執行記録によると、債権者抗告人、債務者相手方間の東京地方裁判所昭和三十一年(ヨ)第六三四五号有体動産仮差押申請事件について、同裁判所は昭和三十一年十一月八日債権額三十万円に満つるまで相手方(債務者)所有の有体動産に対する仮差押をなしうる旨の決定をなし、該決定は翌九日抗告人(債権者)の代理人根岸嘉明に送達せられ、同代理人は同日東京地方裁判所執行吏役場に右に基く執行委任書を提出し、これに基き同裁判所執行吏内村寅吉は同月十日前示相手方の肩書住所において家具等三十九点(見積価額合計九万余円)について仮差押の執行をなしたこと、及び右代理人は同年十二月二十二日同役場に「請求額ニ充タザルニ依リ続行相成度」旨記載した続行申請書を提出し、これに基き前記執行吏内村寅吉は同月二十四日更に同所において清酒一升瓶詰(特級一級取交)二百本(見積価額十五万円)について仮差押をなしたことが認められる。

抗告人(債権者)は、右第二回目の執行は第一回目の執行の続行であるから、民事訴訟法第七四九条第二項の規定に違背したものとするにあたらないというのであるが、右第二回目の執行が前示仮差押決定の抗告人(債権者)代理人に送達せられた後四十数日を経てなされた以上、特別の事情のみるべきもののない本件では、右第二回目の執行は前示法条に違反してなされたものといわざるを得ない。尤も第二回目の仮差押調書には続行と記載されているが、第一回目の仮差押調書中に仮差押をこの程度にとどめ更に仮差押を行う等のなんらの記載のないのと対比して考察し、更に第二回目の執行が第一回目の執行とは目的物を異にして着手されたものである等を考えると、第二回目の執行は第一回目の執行の続行であるとは到底認めることができないから、右記載は上記判断の妨げとはならない。

しからば、原審が右第二回目の執行を前示法条に違背したものと認めたのは正当であり、その他本件記録を精査しても、原決定には取消の事由となすに足る違法不当の点は認められないから、本件抗告を理由ないものとして主文のとおり決定する。

(裁判長判事 柳川昌勝 判事 村松俊夫 判事 中村匡三)

抗告の理由

一、原決定は抗告人の前示決定主文表示の仮差押執行が仮差押決定送達の日から十四日を経過した後のものであるから、民訴法第七四九条第二項に拠り許すべからざるものとして相手方の異議を認め、右執行を許さないと決定した。

二、若し抗告人の前示仮差押の執行が単純に十四日の期間を徒過した後のものであるならば、原決定の理由に基き当然許さるべきものではない。しかし、抗告人の前示執行は仮差押決定送達後十四日以内に着手した仮差押執行の続行であることは記録に徴して明白で、原決定も亦之を認めている。

此の場合に於ては民訴法第七四九条第二項は適用なく、十四日の期間経過後に於ても尚その執行を許すことは判例も之を認め、執行当事者も亦之を受理し施行しているところである。

東京地方裁判所昭和七年(ソ)第一五七号、昭和七年四月二十五日決定(強制執行競売法総覧下六三五以下)

東京高等裁判所昭和二三年(ヲ)第一六号、同年十二月二十四日決定(判例総覧民事編四巻三一〇頁以下)

三、惟うに、仮差押の決定を得ながら十四日以上も之を放置することは緊急保全処分の主旨からいつても、債務者の側からの事情変更等のことを考えるとその期間を徒過した後はこれが執行を許さないという理由は肯ける。しかし、一旦その期間内に執行に着手したが、決定に許された範囲の差押をすることができず、その後更に差押を為し得る財産のあることが判明したような場合には右期間の経過後にその執行を許しても債務者に不測の損害を生ぜしめる如きおそれはない。債務者は保全処分の為されいることを知了し、これが対策は十分にたてているからである。

四、右の如き事情を探究せず、只、十四日の経過というだけで為した原決定は取消さるべきものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例